vol.9 ソプラノ 佐藤 しのぶ
團伊玖磨の名作オペラ「夕鶴」に主演
「普遍的なテーマです。どこの国の人が見ても
共通できる思いを伝えたい」
日本の音楽史に大きな足跡を残している 團伊玖磨 のオペラ「夕鶴」に主演する。来年1月から4月にかけて全国で公演が行われる。
「テーマは深く普遍的なものです。『鶴の恩返し』の民話の世界を超えて、どこの国の人であろうと人間にとって本当に大切なものは何か?と問いかける作品です」と話す。
「夕鶴」の作曲者、團伊玖磨は当時、文化庁のオペラ研修所の所長を務めていた。研修所で勉強していた佐藤は後につうを歌うように師より勧められた。それから随分時間が経った。「当時、歌いなさい、と言われましたが、勇気がありませんでした。『夕鶴』は本当に素晴らしい名演がありすぎます。私はそういった名演を聴いて育ちましたから」
しかし、今年は團の十三回忌。また、東日本大震災を経験したことも、今回の「夕鶴」上演の背中を押した。
「東日本大震災で故郷を失った方もたくさんいます。2年半たっても復興していません。そして、世代を超えて歌う日本の歌がなくなってきていることも気がかりでした。『夕鶴』は、すべてを失ってから本当の幸せとは何か、を気付かされるお話です。團先生の深い思いがあって、書かれています」
「夕鶴」は木下順二の戯曲を台本に1952年に初演された。わなにかかっていた鶴を助けた与ひょう。「女房にしてくれ」とつうが訪ねてくる。夫婦となるが、つうは「織物をしているときは部屋を覗かないでくれ」と頼む。日本人なら誰でも知っている民話だ。
「与ひょうは無欲無心に鶴を助けます。動物や子供とコミュニケーションができる、素晴らしい能力の持ち主なのです。お金という概念を持っていない人です。お金があれば都に行ける、ただつうと一緒に都に行きたい、つうを喜ばせたい、と思っただけなのです。つうも与ひょうを喜ばせたいために都の話をし、布を織ってあげた。与ひょうとつうのボタンの掛け違いが悲劇になっていきます」
演出は歌舞伎の市川右近、美術は日本画家の千住博、衣装は森英恵と日本を代表する才能が集まった。
「みなさんの持っているそれぞれのエッセンスで、新しい『夕鶴』が作り上げられればと思います。伝統とは革新に革新を続けていくことです。新しい『夕鶴』を作る今回のプロジェクトは、『夕鶴』の伝統を作ることです。とても意義のあることだと思います」
Shinobu Sato
日本を代表するソプラノ。芸術家在外研修員としてミラノへ留学。ウィーン国立歌劇場をはじめ、欧州豪州でのオペラ及びオーケストラとの共演多数。文化放送音楽賞、都民文化栄誉章、ジロー・オペラ賞大賞、マドモアゼル・パルファム賞、日本文化デザイン賞大賞等を受賞。テレビ神奈川「佐藤しのぶ出逢いのハーモニー」のパーソナリティを務め今年15年目を迎えた。CD・著書の収益は世界の恵まれない子供たちに寄付され現地の井戸や学校教室の設立、医療等に役立てられ、また、現在は東日本大震災の義捐金として寄付を行っている。
http://www.satoshinobu-ag.co.jp/
オペラ「夕鶴」
1月18日(土)15:00 東京文化会館
3月29日(土)15:00 オーチャードホール
音楽:團伊玖磨
演出:市川右近 美術:千住博
照明:成瀬一裕 衣装:森英恵
佐藤しのぶ(つう)
倉石真(与ひょう)
原田圭(運ず) 高橋啓三(惣ど)
指揮:現田茂夫 東京フィル
■問い合わせ:ジャパン・アーツぴあ 電話:03-5774-3040
2月1日(土)、よこすか芸術劇場、他で公演